苦渋の決断のわずか5分後だった。日本高野連が戦後初の夏の甲子園中止を正式発表したのは5月20日の午後4時だった。午後6時の記者会見より2時間早い公表だったにもかかわらず、愛知県高野連は午後4時5分に報道各社にファクスを流した。
愛知県独自の代替大会を開催したい-。全国49地区最速でその意思を表明した。「全国大会が中止となりましたが、愛知県高野連では3年生に公式戦の機会をつくりたい」。その文面には力がこもっていた。
愛知県高野連の神田清理事長は「夢、目標を失った3年生に対して、ここでまだやれるから頑張れよとすぐに伝えたかった。スピードが必要だと思い、中止を想定し(ファクスを)準備していた。指針だけでも知らせたかった」と明かした。数日前から夏の甲子園中止報道が相次ぐ中、即行で救いの手を差し出した。
昨年の愛知大会は188チームが参加。今夏無観客で地区大会開催が模索されていた時、神田理事長は「無観客では経費的にもとても開催できない」と運営を心配し、日本高野連にも思いを伝えていた。結果的に日本高野連と朝日新聞社は代替大会に資金援助を行うと発表したが、それが開催決断の決め手ではない。「加盟校の先生たちと協力して、経費を削れるところまで削った。手作りの大会になるはず」。3年生のためにという思いで関係者がひとつになっていた。「なんとか10球場確保できた。最後は球場で終われるメドは立った」。3年生は引退の区切りとなる試合だからこそ、学校のグラウンドではなく球場にこだわった。
3月から休校が続く学校が多く、まだ1年生部員の登録作業も終わっていない。これから代替大会の申込用紙を配り、部員が少ない高校には連合での出場も検討してもらう。今回も180を超えるチームが出場すると予想される。学業の遅れ、夏休みの短縮などから、土、日に試合を組み、8月上旬まで時間をかけて開催する。雨天中止などが続けば途中で打ち切りとなる可能性もあるが、全校に最低1試合はさせたいと考えている。
新型コロナウイルスの感染防止策は難度が高い。観客の入場をどうするかなど、解決すべき課題はまだまだ多くある。「6月5日の運営委員会後には発表できると思います」。3年生を送るできる限りの花道を、あと2週間かけて準備する。【石橋隆雄】