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11 December 2019

Gamesmanshipとは何か? 12/11/19


Gamesmanshipとは何か?

MLBのHouston Astrosが2017年のシーズン頃から、ホーム球場のセンター側に設置したビデオカメラで相手キャッチャーのサインを盗み、それをベンチ裏のモニターで即座に解読し、次の投球は何かを、ダグアウトのごみ箱(trash can)を叩くなどの伝達手段で打者に伝えていた疑惑が報道されている。カーブ・スライダーの場合は1回、チェンジアップなら2回たたき、直球の場合は叩かない、といった具合にやっていたようだ。MLB史上の大事件に発展しかねない”Astros cheating scandal”である。cheatは動詞で「だます」意味もあるが、ニュアンスとしてはすべて、「正しくないことをする、不正をする」という意味である。不正をはたらくものはすべて、cheater(s)である。



興味深いのは、多くの評論家が、たとえばセカンドランナーが(カメラなどの電子機器を使わずに)キャッチャーのサインを盗むことは、"Gamesmanship"として許容される、という意見を持っていることである。たとえば、下の動画の冒頭の部分だ。日本人にはなじみの深い「スポーツマンシップ」と違って、ここでいう聞き慣れない「ゲームズマンシップ」というのは、試合に勝つための競技者上の戦略、という意味合いに使うようである。

セカンドランナーはキャッチャーのサインがほぼ丸見えになる性質がある。それを解読し何らかの方法で打者に伝える、これはGamesmanshipであって、不正にはならない、という考え方だ。野球の歴史や競技上の性質を理解したうえで、それは野球では100%フェアゲームであるとさえ言っている。この点、現在の日本の野球というのはどう捉え、どのように指導しているのであろうか?



私が現役の頃には、サインを盗まずとも、セカンドにランナーが出れば、キャッチャーミットのかまえたコース、内か外か、くらいはほとんんどのチームが手振りで打者に伝える努力をしていた。それは当時は不正ではなかったのであるが、現在の高校野球では、セカンドランナーのこのような身振り手振り行為を含めた一切の紛らわしい動きを禁じているようである。これも実際、何が紛らわしいのかという定義が、審判の主観によるところが大きいことと、では巧妙にバレないようにやればそれは許されるのか?という問題を残すことになるのだが。

関連して、MLBで面白いパフォーマンスがあった。以下の動画をご覧いただきたい。2点リードの場面で、ドジャースの抑えはKenley Jansen (ケンリー・ジャンセン)。ランナーがセカンドにいて、キャッチャーは通常より複雑なサインを出している。ところがそのサインが、投手のジャンセンには難しすぎる。タイムをかけて、口頭でサインを確認して、何とか2アウトを取った。

セカンドランナーが得点しても、まだ1点勝っているので、この局面、注意するのはホームランだけである。しかしながら、ランナーがセカンドにいると、サインを盗まれる危険性からキャッチャーのサインは複雑になる。そこでジャンセンは「I'm gonna balk. (ボークするから)」とセカンドの塁審に伝えた。わざとボークをして、ランナーをサードに進めさせ、今度はランナーがセカンドにいないので、キャッチャーは非常にシンプルなサインを出せる。ドジャースバッテリーは、セカンドにランナーがいる場合、当然ランナーはサイン盗みをしてくる危険性が高いという前提に立っていることを示している。サインを盗まれるよりは、無償でサードに進ませた方が安全だとみたのである。



元来、野球は、ワンプレーワンプレーがすべてサインプレーによって進行する間合いの多いゲームという独特の特徴を持っている。よって、もしも相手選手の動きを予測できたならば、試合を優位に進められるのは当然である。したがって、チームは戦略として、相手投手の投球動作上の癖や、捕手のサインを盗もうとする。また、自チームのサインを見破られないようにブロックサインを複雑にする。これは野球という競技の性質の一部であると捉えるか、それともそれはスポーツマンシップに反する、あるいはその防止のためのサインの複雑化は試合時間を長引かせることになるという理由で、すべて禁止とするのか。

一時期、プロ野球では一球一球投手と捕手間で「乱数表」を使ってサインのやり取りをしていた時期があった。が、試合時間が長くなりすぎるという理由で、ある時期から禁止された。ところが、現在アメリカでは、カレッジ・ベースボールやソフトボールでリストバンドに取り付けた乱数表を利用しているケースが増えてきている(下)。テレビで観戦しているとそれは非常に顕著である。逆に言えば、この傾向も「サインは当然盗まれるもの」という前提に立って彼らがこれらの競技をしていることを示していると言えるだろう。






今年の侍ジャパンU-18の選手らが、永田監督のゲーム中のサイン盗み指示を拒否したというニュースがあったと思うが、双方の気持ちは良くわかる気がした。監督は何としても勝たねばならないと思うのは当然だし、国際的にみてもそれは反則に当たらないと判断していただろう。実際に、競技に参加していない第三者が電子機器を利用してサイン解読を伝達する行為以外に、Sign stealingに関する明確な反則ルールは存在しない。打者がキャッチャーのサインを覗くことを禁止しているくらいではないか。ところが、選手の方は高校野球でサイン盗みを禁ずる教育をされているので、これを拒否した、これも良くわかるし、スポーツマンシップの観点からは立派なもんである。

このように、日本の野球は、万が一監督が指示した場合、選手はどうすべきなのか、という問いに答えていく必要があると思う。この点だけでもこれは非常に難しい問題である。監督の指示に従うのか、あるいはそれは違反であると、選手の良心と自己判断で拒否すべきなのか。あるいは、バレないように巧妙にやるのがいいチーム、強いチームなのか。

そのためにも、今一度、ルールに照らして善悪を指導者レベルからはっきりさせておくべきだろう。特に強豪校などは、監督の権威は絶大なところが多いだろうし、ただでさえ競争が激しい中で選手が監督の指示に逆らえる状況にあるかどうかは疑わしい。また、紛らわしい動きといっても、セカンドランナーが「自分が盗塁するから」などのサインを打者に出しているだけかもしれない。そのたびに全国放送中にあらぬ疑いをかけられ注意されたら、セカンドランナーもたまったものではない。

単にスポーツマンシップという観点から、あるいは試合の効率化という点から考慮するのではなく、野球の歴史と性質を再考したうえで、野球というスポーツにおいては、サインを盗むという行為の、すべてがNGなのか、それともそれはゲームズマンシップの範疇なのか。あるいは日本の野球ではNGなのか。それともこれらはすべて個人の良心・裁量の範囲の問題なのか。

それをきちんと議論する時期に来ているのだと思われる。



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