行くぞ甲子園


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30 November 2018

渾身の”見せ球”ストレート 江夏の21球

広島カープ初優勝の昭和54年日本シリーズ最終戦、江夏の21球なら面白い。日本一をかけた近鉄との3勝3敗で迎えた第7戦、9回裏広島わずか1点リード、マウンドにリリーフエース江夏。無死満塁。ここで代打佐々木。


野村克也が短期決戦の日本シリーズ史上最高の見せ場だとしたこの場面、
カウント2ストライク1ボールと追い込んでからのこの回の16球目、意図的に内角低めボール気味にギアチェンジした渾身のストレート。

重要なのは渾身ストレートを放ることで、理由は、
(1)ピッチャーは本気でストレートで三振を狙いに来たと思わせること、
もう一つは
(2)万が一少しでもコントロールが甘く入ってもファウルにさせるような威力があるストレートが必要

なのである。

しかもよく見ると、このストレートを投げるセット時には、あたかもグラブの中で変化球の握りをしているような細かい演技を入れている。続く17球目、早いリズムでセットに入り打者に考える隙を与えず、同じストレートの軌道から内角ボールに消えてゆくカーブ。佐々木には直前の凄いストレートの残像が焼きついているので、これはバットを振らざる得ない(野村に言わせれば見逃せるとしたら王か長嶋だけ)。打者の目の錯覚を利用しているのである。この打席、江夏がストライクゾーンに投げた
のは2球目の外角のストレートしかない。他は意図的にボールを投げている。


続く打者、石渡の2球目にスクイズを見破り三塁ランナー三本間でアウト、ここからの攻めも基本的に佐々木と一緒だ。ただし石渡への見せ球ストレートは少し甘く入った。石渡も打ちに来たが勢いがあるのでファール。最後21球目、同じ軌道からのカーブ。佐々木も石渡も、ものの見事な腰砕けの三振。いかにストレートの見せ球が効果的かを物語っている。

これぞプロと思わせるコントロールと、マウンド度胸の良さでこの無死満塁を無失点で切り抜け広島初優勝。見事な江夏の投球術であった。

Youtubeでみれるこの「時の記録 江夏の21球」と野村克也の解説、そのオリジナルである故・山際淳司の「スローカーブをもう一球」(角川文庫)と合わせて読むと、このプロの一流が一流である所以、その思考をもっと知ることができる。

追記:私は小学生の時にこの放送を見た(当時私はなぜかカープファンだった)。子供心に衝撃的なのはこの最後の空振りのあとのシーンだった。雨で泥濘んだグラウンドに、三振で身も心も一瞬にボロボロになった石渡が、バットでかろうじてそのがっくり来た己の体を支えようとしたものの、それさえも許さんとばかりに、非情のぬかるみは、勝者が感激を分かち合う画面から彼をきっちり葬り去ったのである。これほど衝撃的な勝者と敗者の命運を分けたシーンもないものである。今見ると転ぶまでは行かなかったようではあるが。






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